2010年11月15日
【ベトナム】
携帯電話番号の扱い
Brain Works Asia co.,Ltd
田口 秀一
日本とベトナムで大きく異なるもののひとつに、携帯電話番号の扱いがある。
言うまでもなく、日本では携帯電話番号はもはやプライバシー情報のひとつであり、
セキュリティの対象である。
日本で携帯電話番号を軽く扱おうものなら、
一気にクレームや情報漏洩事件の対象となり、大きく信用を失う。
私自身、日本にいたときにはセキュリティコンサルタントをしていたので、
非常に現実的な問題として理解している。
では、ベトナムではどうか。
隠すどころか、むしろオープンにされているというのが実情だ。
ほとんどの人の名刺には、携帯電話番号が印刷されている。
日本で「個人の所有物ですから」などと携帯電話番号を隠すのとは大違いである。
また、WEBサイトや広告の問合せ先が
個人の携帯電話番号であることも珍しくない。
ただでさえ人材の定着が悪いベトナムで、かなりリスキーなことだが、事実だ。
よって、連絡してみると、既にその人は他の会社で働いていた、などということもある。
また、連絡先というと、標準が携帯電話番号ということになる。
例えば、ベトナム人スタッフに「○○さんにアポとって」などと指示をすると、
まず携帯電話にかける。
そして、電話に出なかったり、コールすらならなかったりすると、
「連絡が取れませんでした」という報告が返ってくる。
日本人的には、よほど親しい人か常に外出で連絡が取れない人でなければ、
まずは会社にかけるのではないだろうか。
また、仕事の用事で携帯にかけてつながらなければ、会社にかけてみるものだ。
しかし、こちらのスタッフは、まず会社にかけるということをしない。
「連絡が取れなかった」という報告に対し、
「じゃあ会社にかけてみたの?」と聞くと、「いいえ」。
「普通、携帯が駄目なら、会社にかけるでしょ?」には、「そうなんですか」となる。
基本的に考え方が違うのだ。
背景を知れば、ある程度は理解できる。
ベトナムでは、固定電話回線が整うより先に、携帯電話が普及してしまったからだ。
よって、会社にはさすがにあるが、固定電話がない一般家庭は多い。
つまり、標準の連絡手段が携帯電話なのだ。
携帯電話から少し話がそれるが、電話に関連することで驚くことがある。
スタッフに顧客の名刺を渡して、アポ取りを依頼するときだ。
スタッフは名刺を見ながら電話する。
そして、その結果を、こともあろうか、名刺に直接書き込むのだ。
「外出中」「連絡できない」などをメモ代わりに名刺に書くのである。
ある特定の人がするのではない。
事前に注意しない限り、ほぼ全員が確実にそうするのだ。
よって、まず注意事項として、
名刺には絶対に書き込まないように、と注意しなければならない。
しかし、それでもしてしまうので、なぜなんだ、と頭を抱えたくなる。
携帯電話番号の話に戻そう。
例えば、顧客の会社に連絡し、社長につないでほしいと伝えたとする。
しかし、社長は社内にいなかった。
このとき、電話に出た顧客のスタッフの対応は以下のようである。
社長と連絡を取りたいですか?携帯電話番号を知っていますか?
こちらが聞かなくても相手が率先して教えてくれるのだ。
名刺に携帯電話番号を書く国ならではの文化だろう。
日系企業の方などは、あまり教えたくない方もいらっしゃるので、
部下が勝手に教えることに困っているケースもあるようだ。
その他、電話に関連して気が付く点としては、
ベトナムでは元気に明るく電話口に出る、というケースがほぼ皆無であると感じる。
ぼそぼそと、いかにも事務的に電話に出る。
また、言葉が通じなかったら、そのまま切られることも多い。
もう一度かけると、別の人が出て、その人は英語なり日本語なりが通じるので、
さっきの人が交代すればいいのに、と感じるのだ。
ベトナムでは、文化の違いによるものもあるとは思うが、
電話対応や名刺交換などの基本的なビジネスマナーが
全く教育されていないのがよくわかる。
私はよく研修講師をするのだが、
そういう場で名刺の渡し方について教わったことがあるかと聞くと、
あるという人は10人に1人もいない。
ベトナムではとりわけ、専門スキルや専門知識が重要視される。
それらも重要な能力だが、今後のベトナムでは、
ビジネスマナーやモラル等についての教育がより重要になってくるだろう。
ベトナム企業の多くの顧客や取引先は先進国の企業や人であり、
今後、更に経済が発展すれば、より多くの人が自ら海外に行く機会も増えるのだから。
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