アジアブログ

 

 
 

2011年4月5日 【ベトナム】
思い込み

Brain Works Asia co.,Ltd
田口 秀一

2月末から3月にかけて、
ひっきりなしに日本からの視察団がベトナムに入りました。
行先はホーチミンをはじめとするハノイ、ダナン、ニャチャンや田舎の農業地域など様々である。


また、ベトナムだけでなく、インドネシア、
カンボジアなど東南アジアの近隣国にも足を伸ばしている。
私自身もカンボジアに帯同し、いろいろと施設を見たり、話を伺ったりした。


参加者は一様に高い関心を示す。
そして、「本当に来てよかった。
日本で見聞きする情報と、実際に現地を見るのとでは大違いだ」とおっしゃる。
やはり現物を見るに勝るものはないといえる。


わかりやすいところで例を挙げよう。
日本からベトナムに来た方が最初に驚くことのひとつに“オートバイの数”がある。
道路上をひしめき合って走るオートバイの多さに驚愕するのだ。

 


  

 


何を今さら。そんなの誰でも知っているだろう、と思われるかもしれない。
しかし、もしベトナムに来たことがなく、実際にそれを見たことがない方が
写真や文章、動画などを見ただけで言っているとしたら、それは大きな勘違いをしている。
現実は、更に凄まじい。
写真どころか、動画ですら、とても表現しきれない。
実際に現地に来て、自分の周囲をオートバイがひしめき合って走るのを見なければ、
絶対にわからないのである。


ところが、誰しも、自分の知っている範囲内や自分の中の常識で物事を捉え、
思い込んでしまうものである。
「日本の常識は世界の常識ではない」とよくいわれているが、
これも頭でわかっているのと、現地で体験するのとでは、理解のレベルがはるかに異なる。


国籍など関係なく、誰でもそういう部分はあるのだが、
ベトナム人と接していると、特にそういう傾向を感じる。
事例を挙げ、注意事項としてお伝えしたい。


例えば、ベトナム人の中には、まだまだ外国に行ったことが一切ないという人が多い。
日本が好きだから日本語を勉強し、日系企業で働いているという日本語が上手なスタッフでも、
日本には行ったことがなく、ニュースやインターネット、本、
人から聞いた話で知っている、ということがほとんどだ。


情報を得る手段が発達し、
簡単に自分の知らない情報を得ることができるようになったことの弊害といえると思うのだが、
生の情報ではなく、見聞きした情報だけをよりどころとして、知った気になっている傾向が強い。


そしてそれは、逆に本人たちの視野を狭くしてしまっていると感じる。
ベトナムではドラえもんや名探偵コナンなど、
日本の漫画がベトナム語訳されて販売されており、人気がある。
私が会った人の中には、ドラえもんを読んで日本のことがわかったと言っている人もいたほどだ。


多くのベトナム人は、この思い込みを理解できていない。
自分が知っていることがすべてであり、正しいと思いこんでしまっているのだ。
もちろん、私も含め、日本人やその他の外国人でも、そういうことはある。
しかし、繰り返しになるが、ベトナム人と話していると、特にそう感じるのだ。


もう1つ、例を挙げよう。
何か知りたいことがあり、インターネットで情報を調べたとする。
皆さんは、その情報について、どう捉えるだろうか。
よし、これでわかった!と思うか。
この情報は本当なんだろうか?と疑ってみるか。
もっと違う側面から見た情報や、ここには書いてない情報もあるかもしれない・・・と思い、
他の手段を使って調べてみるか。


仮の情報として獲得しておき、また後で詳細確認する、という場合であれば別かもしれないが、
ビジネスで利用する情報ということであれば、普通は何らかの裏付けを取るはずだ。
しかし、ベトナム人の場合は、ここが違う。


インターネットに出ていた情報だから正しい。
知人から聞いた話だから正しい。


となり、そこで完結してしまう。
インターネットの情報は玉石混合であること、古い情報かもしれないこと、
知人が間違っていたり、勘違いしているかもしれないこと、
見聞きした情報が網羅的ではなく全体の一部分だけかもしれないことなどの可能性を疑わず、
鵜呑みにしてしまうのだ。
そして、「なぜ疑ってみないの?」という質問には、
「知人を信じているから」という回答が返ってきたりする。


上記は社会人になったばかりの新人の話ではない。
すでに何年もの社会人経験を積んだ、30歳近いスタッフでもそうなのである。


こういう話もあった。
あるベトナムIT企業でプロジェクトマネージャーをしている人から聞いた話である。


そのIT企業では、日本からの仕事を主に受託しているのだが、
驚くことに、一度も納期に遅れたことがないというのだ。
信じがたい話である。
私もITの仕事ではプログラマー、SE、プロジェクトマネージャーを経験しているが、
数年間にわたって複数のプロジェクトを運営しながら、
1度も納期遅れがないということなど、まずあり得ないはずである。


その後、その人に突っ込んで確認していくと、事情がわかった。


要するに、納期に間に合わないと判断した時点で顧客サイド(ITベンダー)に連絡を入れ、
納期の延長を了承してもらっていただけだったのである。
本人は、これを納期遅延ではないと思っているのだ。


顧客サイドとしては、この遅延は織り込み済みであり、
遅れることを見越してバッファをもったスケジュールを組んでいるはずだ。
そして、受託側のベトナム企業に対しては、
本当のリミットよりも早めの納期を伝えているに違いない。


しかし、そのベトナムIT企業のプロジェクトマネージャーは、
そんなことに考えが及んでいない。
顧客サイドにリスクヘッジや調整をしてもらっていることに気づいておらず、
自分たちの仕事には問題がないと思っているのだ。


もちろん、ベトナム人にも正確な知識や高度な判断力、理解力を持った人はいる。
しかし、いつもそういう人が相手ならよいが、
残念ながら、そういう人と仕事をできる機会は少なく、
ほとんどの場合は上記の事例のようなケースである。


アジアやベトナムでビジネスをするというと、チャンスに溢れ、格好いい印象が先行するが、
無防備に突っ込んでいくと、手痛いしっぺ返しを食らう。
我々日本人自身も、まず思い込みを排除しなければならないのである。


自分自身が現地を体験し、理解することに加え、
現地事情に精通したパートナーやアドバイザーと協力することは、
進出にあたって絶対に外せない事項だろう。



 




 


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