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2011年8月15日 【ベトナム】
通訳

Brain Works Asia co.,Ltd
田口 秀一

ベトナムに来て以来、通訳の重要性を非常に強く感じている。
言語が違うから通訳が必要だ、という程度の話ではない。
言語スキルを超えた通訳のスキル全般のことである。

もし語学が堪能であれば、通訳を必要とせず、
全て自分で対応してしまえばいい、という話もあるだろう。
しかし、ベトナム語をビジネスレベルでマスターするというのも、そう容易なことではない。

ここベトナムでは、英語ができるベトナム人は多いものの、
ビジネスレベルでの正確性を要するやり取りでは、やはり不安を感じる部分も多い。

何しろ、お互いに母国語ではない言語でやり取りをするのだ。
どちらかの母国語であれば、少なくとも一方は正確に話し、理解しているといえるが、
お互いに母国語でない言語の場合、
本当に詰めの部分などで細かいニュアンスまで伝えようとすると、
齟齬が生まれる可能性は高い。

また、仮に一方がネイティブクラスであったとしても、
もう一方がそうでなければ、正確なやり取りは期待できない。
特にベトナム人の場合、わかっていなくてもわかったと言うことが多いため、リスクは倍増だ。

ベトナム人どうしでベトナム語でやり取りしても、後でトラブルが多発するのである。
外国人が英語でやり取りした場合、どんな結果になるかは火を見るより明らかだ。


  


そこで、通訳の出番となる。
しかし、この通訳で問題が発生することが非常に多いのだ。

よくあることの一つとして、会話の内容を正確に伝えない、ということがある。
自分の判断で、会話内容を省略してしまったり、
逆に言っていないことを伝えてしまったり、内容を変えたりしてしまうのだ。

上記のケースは、言葉がわからなくても気づくことができる場合がある。
自分が話した内容に比べて、明らかに通訳の言葉の量が少なかったり、
多かったりするのだ。こちらが15秒かけて話したことを、
通訳は5秒しか話さなかったりするのである。
言語が違うといえど、そんなに短くなるはずがないのだ。

そこで確認すると、必要ないと思った、という返事が返ってきたりする。
こちらが意図して丁寧に話したことも、通訳は言葉づらだけを捉え、
必要最低限の言葉で伝えればいい、くらいに思っていることがある。

例えば、あるレストランでのこと。
このレストランは日本料理から韓国料理からベトナム料理まで、
幅広くメニューを揃えている。
このレストランで、店長と打ち合わせをした。

この際、こちらが「今日、ここで焼きうどんを食べてみたが、おいしかった」
ということを伝えたのだが、通訳からそれを聞いた店長はきょとんとしている。
なぜか。通訳は、焼きうどんという料理の具体名を伝えず、
「今日、ここで食事をしたら、おいしかった」とだけ伝えたのだ。

私は、このくらいのベトナム語ならわかるので、
なぜ省略するのか?と通訳に確認すると、必要ないと思ったと言うのだ。
こちらとしては、「日本人がこのベトナムのレストランで日本食を食べたが、
それでもおいしいと思った」という賛辞と、
具体名を言うことで話を広げていく意図があったのだが、
通訳にとっては、どうでもいいことなのである。

また、本人を差し置いて、通訳が相手のベトナム人と延々と会話を続けてしまう、
ということもよくある。
こちらの質問に対し、相手のベトナム人が回答すると、
それに対して通訳が質問を返し…ということを延々と続けるのだ。
途中で、「ちょっと話を正確に確認していますので」くらいの断りがあればまだいいが、
それもなく2~3分も続くこともある。

私としては、様子を見てみるために意図的に話を続けさせることもあるが、
通常は途中で遮り、注意する。そうしないと止まらないのだ。

こんな例は、枚挙に暇がない。
要するに、通訳という仕事をきちんと理解していないのである。
通訳とは、相互の会話を忠実に伝えることが役割のはずだが、
そこに自分の考えや判断を含めてしまうのだ。
忠実に伝えようとした場合、当然、話の強弱や微妙な「間」なども要求されるが、
こんなレベルなので、到底そこまでできるはすもない。

また、本人は悪気はなくとも、会話の内容を正確に理解できなかったり、
全く会話が成立しないこともある。このケースで多いのは、
その言葉を知らないというケースなのだが、もう一つあるのは、
ビジネスの理解力がない、またはビジネスの仕組みを理解していないというものだ。

日本語だけを勉強してきた人は、社会人として数年を過ごした人でも、
本当の意味でビジネスを知らない。
例えば、法人どうしで取引するときには、見積→注文→納品→検収→請求
などのような流れで業務が進むが、そのようなビジネスの流れを知らないので、
話について来れず会話が成立しない、という事態に陥るのだ。

私たちは、通訳の教育は非常に重要な課題であると考えている。
言葉だけがわかっても通訳はできない、
ということを過去の経験から身に染みて理解しているからだ。
自分が言葉がわからない中で、通訳が何を言っているのか把握できていない、
というのは大変なリスクだ。

顧客と接するときのマナーも重要な課題である。
大事な取引先で通訳が失礼な態度をとれば
取引自体に支障がでることも考えられる。
あの会社は、社員教育がなっていない。
そんな会社と取引して大丈夫なのかと。

通訳を使って仕事をしている企業は、自社は本当に大丈夫なのかと、
一度社内を見渡してみてもらいたい。
きっと、様々なリスクが見えてくるはずである。


  



 




 


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