2011年9月20日
【ベトナム】
ベトナム流リスクヘッジ「それいくら?」
Brain Works Asia co.,Ltd
田口 秀一
ベトナムの、特に南部の人たちは明るくて陽気だ。
ひとなつっこくて優しい人が多いのだか、ぼったくり商売も多く、
油断すると適正価格の数倍のお金を払う羽目になることも多い。
これはガイド本にもよく書いてあることで、ご存知の方も多いだろう。
どこの国にも多かれ少なかれそういうことはあり、どこの国の人でも被害に遭うのだろうが、
日本人は普段、日本国内の安全、安心な環境に慣れているので、より注意した方がいい。
そんなことは百も承知だと言われるかもしれないが、私がベトナムで4年間生活する中で、
ベトナム人のシビアさや日本人の甘さを感じることも多いので、このあたりを書いてみたいと思う。
外国人がベトナムに来て、全くぼったくりに合わないというのは、まず不可能だろう。
何しろ、適正価格を知らない上に、商品に値札がないことが多いのである。
よって、店の人に聞き、その答えをあてにするしかなくなる。
ベトナム人同士がお互いの買い物に対して、「それいくら?」と
いちいち確認するというのは有名な話である。
そうやって、相場観を養っているのだ。
ベトナム人ですらそうなので、外国人が相場観を持つのは簡単ではない。
私も大分相場観がわかってきてはいるし、値切りも多少するし、
騙されることも少なくなったが、ベトナム人の妻と一緒に行動していると、
そこまでするか、と半分あきれつつ感心し、まだまだ自分は甘いのかと反省することも多いのだ。

まず、これはベトナム人ほぼ全員がすることだと思うが、食事をしたときなど、
店から出されたレシートを穴が空くほど上から下までじっくり見る。
注文に間違いがないか、ということである。
日本であれば、そんなに見るのはみっともないとか、
失礼だという思いがあり、さっと目を通す程度だろう。
しかし、ベトナムではそれが標準なのである。
むしろ、目を通さないような人は無用心ととられるかもしれない。
別の話をしよう。
妻と共に水泳のゴーグルを買いに行ったときのことである。
私が日本製のゴーグルを見つけたのだが、それが35万ベトナムドン
(当時のレートで、日本円で約1400円)であった。
店員の言い値である。
私はそんなものだろうと思い、買おうとしたのだが、妻は認めない。
散々交渉し、結局1万ベトナムドン(40円)の値下げとなった。
妻は不服そうで、一度店を立ち去るふりをしようなどと言っていたが、
私がなだめ、そこで手打ちとした。
後で調べたところ、買い値はほぼ日本での定価であった。
ベトナムで日本製の物を買い、定価であればOKであろう。
しかし、この時の妻の値切りには、本物のベトナム人の姿を見た思いがした。
言い値をそのまま受け入れることはまずしないのである。
また別の話をしよう。
妻と海鮮料理を食べに行ったときのことである。珍しいカニがあったのだが、
これが40万ベトナムドン(=当時レートで約1600円)と高い。妻はまた
交渉を始め、今度は見事に30万ベトナムドン(=同約1200円)に値切った。

実に、3/4の価格に値切ってしまったのである。日本では普通、これほどの
値下げはありえないだろう。しかし、ベトナムではありえるのである。
それだけ、元の値段(=店員の言い値)が高いということだ。
高いといえば、観光地としても有名なベンタン市場がある。
ガイド本にも必ずといっていいほど載っているので、ご存知の方は多いことだろう。
ここの値段はあってないようなものである。
私の経験上、カバンなどは店員の言い値の1/3まで下げられる。
言い値の1/2~1/3くらいが適正価格ではないだろうか。
さて、日常生活の場面を例に紹介してきたが、では、
こういうことは日常生活の中だけなのだろうか。
そんなはずがないであろう。
個人商店ならまだしも、企業なら大丈夫だろう、と思うのは安全、
安心になれた日本人の油断である。
値段を吹っかけるのに加え、いつまでも支払いをしない会社、
支払いしないまま消息を絶ってしまう会社、
前金だけ受け取っておきながら仕事をしない会社など、
油断すると一杯食わされてしまうような会社も多い。
もちろん、本当にまともなよい会社もあるのだが、まだまだそういう会社は少ないだろう。
悪意はなくとも、いい加減な会社というのも多い。
人を信じることは重要なことだが、見知らぬ土地に来て、
いきなり信じるところから入ると、痛い目に遭う。
特に日本人は美徳的な意識があり、まず信じるところから入ってしまいやすいと思うが、
十分にお気をつけいただきたい。
また、いくら気をつけても、初心者ドライバーが事故を起こしてしまうのと同じく、
現地に不慣れであればトラブルに遭ってしまうこともあるだろう。
しかし、ビジネスではある程度、考えたり人に相談しながら、
また様々な情報を得て裏づけを取ったり検証をしつつ、物事を進めることができる。
ベトナム人が周囲の知人に物の値段をいちいち聞くように、
進出企業の方は信頼できるアドバイザーやパートナーに相談・確認することで、
現地におけるビジネスの相場感覚を得ることができるのだ。
今の時代、いちいち痛い目に遭って学んでいる余裕は、どの企業にもないはずである。
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